中野サンプラザは、2004年12月1日から民間による経営になりました。開館以来、外来ミュージシャンのコンサート会場として親しまれてきたサンプラザは、今どのように生まれ変わったのかを、長年当ホールで音響を担当してきた中西篤さんに伺いました。(2005年12月取材)
Q 民営化されるということで、心の動揺はあったでしょう。
中西 やはり、どうなってしまうのか不安でした。多くの職員はやめていきましたが、新会社の社長の方針を伺った段階で、希望を持てました。
Q 新組織でやってみてどうでしたか。
中西 とにかく忙しくなりました。一応、音響の担当ということになっていますが、経理から施設貸出しの窓口、営業まで担当しています。
Q 慣れるまでは、まだまだ時間がかかるでしょうね。
中西 頭の中では納得しているのですが、体がまだ追いつかないようです。でも、これからは公営ホールでも1つの仕事だけでなく複数の仕事をして効率を上げないと通用しない時代になると思います。
Q 当然のことですが、民間は利益を生まなければやって行けません。給料はどうなりましたか。
中西 給料は以前と変わりませんが、ボーナスはだいぶ少なくなりました。でも今後、利益が出れば貰えるわけです。こういうのは民間では当然のことですが、役所は赤字でも出ますからね。公務員が民営化反対をするのがわかりますね。
Q ホームページを拝見すると、変わったと感じます。レストランでも、ランチが安くておいしそうなので、一度は行ってみたい気になりました。
中西 公共ホールの食堂というイメージでなく、競ってイメージアップしています。貸事務所も始めまして、館内の人口も、来客の数も大幅に増えました。私たちのようなところは、まず、人を呼ばなければ話にならないわけです。武士の商法では人が集まりません。
Q 公共ホールでは、難しい顔で客を監視しているような風景を見かけます。受付に座っている職員も、こちらが話しかけないと黙っている。市役所の受付のようでは駄目ですね。
中西 そうです。受付にどなたかが近づいて来たら、立ち上がって、笑顔で話しかけることができないと客商売とはいえません。まず、笑顔です。今の私たちの事務所には「笑顔、おしゃれ、緊張」という標語が掲げられています。
それから、人を呼ぶときも○○さんと「さん」付けで呼ぶように指導されました。外来のスタッフと顔見知りでも、きちんと○○さん、と呼ぶようにしています。馴れ馴れしくニックネームでは呼びません。また、お客様は、子供でもお年寄りでも分け隔てなく、丁寧に応対するようにしています。
Q よく見かけることですが、客の前で、上司を○○課長とか役名で呼んでいるのも無神経ですものね。
中西 自分たちのことを今までどおり職員と言うと支配人から叱られます。民間だから社員というべきなのです。まず、このようなことから意識を変えないといけないですね。
Q 不思議なもので、公立ホールを批判していた民間人が公立ホールの職員になって2年もするとすっかり意地悪な役人になってしまいますからね。しかし、今度は民営になったとき、そこから抜け出すのは大変なことです。ホールとしては、観客だけでなく、主催者も出演者もスタッフもお客様という自覚が無いといけません。
中西 ですから、主催者が希望したことは、可能な限り何でもやることにしています。営業も24時間体制ですから、夜中の仕込み、徹夜のリハーサルも可能です。このようにすればどんどん収入が増えるわけです。場所を貸しているのですから、フルタイムで貸すべきです。
Q そのようなことをやると、今までどおり営業している周辺の公共ホールは負けてしまいますね。
中西 最近、公演が終了すると、次の公演の予約していく主催者が多いです。これで喜んでいただいているのだと理解できます。何日前からでないと受付しません、などと言っていたら客は逃げてしまいます。
Q 一度来た客は逃さない・・。そのためには借りる側(主催者)から喜ばれるホールになることです。「サンプラザは何でも可能にしてくれる」と思っていただくことが大切です。これこそ日本音響家協会選定の優良ホールにふさわしいですね。
民間なのですから、外部への業務委託も競争入札の必要はないですね。
中西 そうです。しっかりやっていただいて、妥当な契約金なら問題ないです。そのため、委託の社員も毎年、年度末に味わう不安から解消されるので、身を入れて仕事ができます。まじめに一生懸命仕事をしていれば報われるのです。
私たち社員も、会社の方針に沿ってがんばれば、それだけ報われるので、一生懸命です。
Q ご自分の生活環境も変わったでしょう。
中西 もともと舞台の裏方なので経理などの知識はありませんから、そういうことは知っている人に聞くことにしています。専門外のことなので恥ずかしいことではありません。
Q 設備などは、なかなか改修できなくなりましたか。
中西 施設を(株式会社が)引き取る前に、全館改修しているので今のところは必要ありませんが、今後は利益を上げていかないと無理でしょうね。
Q それでは今後も、全国のお手本として頑張ってください。ありがとうございました。
■中野サンプラザは「働く青少年の雇用安定と福祉増進」を目的に当時の雇用促進事業団(現在、雇用・能力開発機構)が1973年に建設したもので、コンサートホール、結婚式場、宴会場、ホテル、レストランなどを備えた施設である。
同機構は2004年9月に、土地と建物を「株式会社まちづくり中野21」に53億円で売却。その施設を地元の企業などで設立した「株式会社中野サンプラザ」が12月から10年間借り受けて運営をしている。
20階のレストランは、全日空ホテルからシェフを招き、メニューと装飾を一新。地下にあった婚礼予約受付は眺望の良い10階に移し、地下は女性専用ブースもある「まんが・インターネットカフェ」にした。貸スタジオも造設している。
9階の図書館はSOHO向け小規模レンタル・オフィス(51室)にして、賑わう施設に変身させている。
給湯施設などの維持管理費の節約にも力を入れ、ホールの24時間営業、広場の貸し出しなども開始するなどして、早くも黒字に転じている。(取材・八板賢二郎)