都城市には、全国的に有名な焼酎の霧島酒造がある。その地に2004年5月16日、「都城市ウエルネス交流プラザ」がオープンした。ウエルネスは「生活全体を積極的・創造的なものにして、健康を維持・増進させようとする生活活動」の意である。指定管理者として都城まちづくり株式会社が運営している。オープンしてまもなく、日本音響家協会の優良ホール百選に認定された。指定管理者として理想的な理念で運営している心意気を、当施設の技術スタッフ・出井稔師さんに伺った。(2006年1月取材)
Q 交流プラザという名称のごとく、市民の交流を主目的とした運営とお見受けしますが、どのようなことをモットーに運営していますか。
出井 はい、市民の方々が気楽に立ち寄れ、待ち合わせなどにも利用していただき、そのまま街中に出かけていただく。そうすることで少しでも街中が賑わいを取り戻せたらと思っております。
Q 子供たちや子連れの方々が気軽に立ち寄れるという印象ですが・・
出井 お子様がお母様と一緒にアニメーションのTVを見たり、絵本の読み聞かせをしたりできるキッズルームを用意しています。ベビーベット、授乳室なども設けてあります。平日の昼間には、お母様とお子様が一緒に遊ぶ光景が見受けられます。自主事業のときは託児所として使っております。
Q このような運営方針は、なかなか市民には理解されないですね。
出井 そうですね。これまでにも何人かの方に「近くに住んでいるのに、こんな所があったのね」「ここは何をする所ね?」「催し物があるとき以外は、来てはいけないと思った」などのお話を伺い、それ以来、市民が気軽に立ち寄れるホールをアピールしています。
Q 指定管理者として管理運営をしてみていかがですか。
出井 今までは自主事業などすべて役所からの予算で行われていたわけですが、現在の企画物はすべて利用料金から捻出しております。そのため、一つの公演に大きな予算を掛けられませんが、急場の催し(自主事業)にもすぐ対処できるようになりました。
Q 小回りが利くので、旬の事業ができるわけですね。コンサートなどの中身だけでなく、ロビーなどでお茶の接待など、とにかく市民に喜んでいただくための努力なさっているようですが。
出井 コンサートそのものは演奏家のパフォーマンスが大きな役割ですが、お客様を迎える側(ホール管理者)の役割は何かと考えると、心からのおもてなしではないかと思い、幕間でのワインサービスやお茶などのソフトドリンクのサービスなどを無料で提供しています。こういったコンサートを何回か続けていくうちにお客様から「コンサートにいくのが楽しみです。今度のワインはどんな銘柄ですか」「コンサート前には美容室で髪を整えて来ます」という反応がありました。
Q 観客としての楽しみ方やマナーについての市民教育にもなっているわけで、「ホールはワクワクするところ」というのが浸透してきましたね。市民が自分たちで作る(創造)喜びを知って貰うためにもいろいろな企画をしていますね。
出井 はい、子供たちから大人まで、創造の楽しさを知ってもらうための企画をいたしております。高校生たちにはコンサートを自主運営してもらい、音響や照明のワークショップをしたり、演劇活動のためのワークショップをしたり、ポスターやバナー、横断幕などを作るために市内在住の芸術家によるワークショップを行ったりしています。また、音楽の技巧も向上してもらうために、宮崎県出身のプロのミュージシャンによるワークショップも企画しています。この他にも、地元の音楽関係者が実行委員となって声楽中心の音楽祭なども行っております。また、ラウンジでは不定期ではありますが、ミニコンサートや講演会などを行っております。
Q 市民会館は市民のもので、市民が上手に、快適に施設を活用できるようにサポートするのがプロのスタッフでしょうから、スタッフは市民をリードできる知識と能力がなければならないしょう。
出井 ホールを運営するスタッフも常に目標を定めて、そのための勉強を自分たちで見つけていかなくてはいけないと思っております。
Q それでいて、市民の身の丈に合わせて対応できるプロにならなければなりませんが、指定管理者が認められるには、まず市民に支持されなければならない。既存の公共ホールの方々には臆病な人が多いので、指定管理制度に危機感を抱いている人が多いようです。
出井 指定管理者という言葉がどうしても一人歩きして、悪者のような印象がありますが、そこを運営する人間の考え方一つで変わります。「誰のために、何のために」という目標を見誤らなければ、どのように運営してもよいのではないでしょうか。
Q 貴施設は、日本音響家協会のホームページに掲載され出井さんの報告記事を拝見しただけで、いい施設だなと感じました。
出井 ありがとうございます。私どもの職員は、舞台技術職員以外、畑違いの世界から来た者ばかりで会社組織もままなりません。しかし各職員、それぞれの信念を持って毎日切磋琢磨しております。
Q 厳しさも増えたでしょうが、喜びも多くなったでしょう。
出井 そうですね、民間ということもあって結構風当たりが強いこともありますが、コンサート後のアンケートや直接声をかけていただく中で、とても満足されたと聞いたときには、嬉しい限りです。今後の活力にもなります。
Q 貴施設の運営が、全国の文化施設のお手本となるよう期待しています。
■都城市ウエルネス交流プラザには、本格的な美術展覧会や商品展示会、ちょっとした講演会まで開催可能な多目的ギャラリー、10名から40名程度のセミナールーム、挽きたて豆でいれたコーヒーなどを飲みながらくつろげるラウンジ、各種の練習ができる完全防音設備の施された鏡張りのスタジオ、そして293席を備える音楽を主目的としたホールがある。
常に市民の厳しい視線を浴びて緊張感と使命感を胸に、利用者が笑顔でお帰りいただくように「自分たちには厳しく、利用者には優しく」運営している。(取材・八板賢二郎)