インターネット座談会
日本音響家協会に期待するもの
大野 正美(フリーランス)
加藤 久男(札幌サンプラザホール)
加納 利光(札幌市教育文化会館)
丹羽 功(名古屋市民会館)
花田 昌明(宮崎県立芸術劇場)
前川 幸豊(吹田市文化会館)
横山 斉実(不二音響株式会社)
2000年1月収録したもので、所属名は当時のものです。
入会のキッカケ
MC:まず皆さんの入会されたきっかけを教えてください。
大野:富士市で開催された技能認定講座ベーシックコースを受講したのがきっかけですね。その後、協会のセミナーや飲み会に参加するうちに、なんか楽しそうだなー、こういう協会いいなーと思って入りました。
横山:私は一緒に仕事していた方に誘われたのと、新しいチャレンジという意味で入会しました。というのも私は以前にSRの世界にずっといたので、お芝居とかの世界をしらなかったんですね。それでまあ、自分にとっても新しい勉強になるかな、と思ったのがきっかけです。
加藤:私の入会は、北海道支部になる前でしたので、北海道にはまだ会員が1、2名のときでした。職場の上司からレポートを書けと言われて、いわれるままレポートを出したのがキッカケです。それが入会レポートだとは、そのときは知りませんでした。
前川:私の場合は、日本照明家協会会員である職場の上司に「おまえもこれからは、音響家協会に入っとけー」と言われまして別に深く考えることもなく、というよりも「音響家協会?なにそれ?PA協やったら知ってるけどなー」と。ともかくセミナーに出席するという理由で、たしか深川資料館だったと思いますが「まあ、日本の首都、東京に出張できるからいいか」と喜んでいたという、たいへん不謹慎なきっかけでした。申し訳ございません。
丹羽:入会のきっかけは、会社の上司が協会の運営委員をしているのをみて、なかなかおもしろそうなことをやっている会だなと思い入会しました。
花田:宮崎の劇場に勤務しているのですが、その劇場の企画事業として音響家協会のベーシックコースを行ったのがきっかけでした。
MC:入会されてからどうですか、何か感じたことはありますか?
大野:実は前から協会に興味がありました。フリーで仕事をしているとどうしても不安とかあって協会に入りたいな、というのはあったんです。入会してみてから、いろんな方々にお会いして、いろんな話を聞いて、すごくいい経験をさせていただいています。
丹羽:入会して最初に感じたのは、協会の人たちがみんな気さくなことですね。
加納:以前は引っ込み思案な性格でしたので、はじめは戸惑いもありましたが、協会は若い人の意見を取り入れて活動してくれますので、自分の意見が反映したりしていると、やり甲斐を感じますね。
前川:私は先程申し上げましたように入会した理由が上司命令みたいなもんですので、しばらくはただただ受け身の姿勢でした。たまにセミナーなどに出席しても知っている人がいなかったので、終了後の飲み会にも参加せず、終わったらすぐに直帰するという運営する側からみるとたいへん不真面目な会員でした。しばらくして西日本支部の運営委員の方から「あんたも運営委員になってんかー」と商工ローン並みの勧誘にあいまして「僕みたいなもんが運営委員なんてとんでもない!」とお断りしていたのですが、とうとう断りきれず引き受けました。するとどうでしょう、それまでの受け身的姿勢の会員で、閉鎖的な会館から外に出ることもなかった私が、他のホールや放送局の人、メーカーの人、フリーランスで活躍されている方、ボランティアで頑張っておられる方々、と多種多様の音響技術者と知り合うことができました。到底、職場だけでは知り合うことのできない方々と知り合うことができただけでも自分にとっては、大切な財産ですね。
横山:最初はビビリましたね。なんといっても協会には大御所がずらりといるわけでしょう。すごいネームバリューの方々がたくさんいるわけじゃないですか。でも入会して、そういう方々が身近に感じられてきましたし、新しい知り合いができてお話するのは自分にとってすごく勉強になりますよね。それといろんなメーカーの方もこの協会に個人として参加している、ということをすごく感じますよね。
加藤:私も横山さんと同じで、大御所が大勢いらっしゃるのでびっくりしました。ところが、いろいろ協会運営のお手伝いをさせていだたいているうちに、皆さん優しく気さくな先輩ということが分かって嬉しくなりました。
組織に依存しない個人参加だから
花田:横山さん、加藤さんと同じで、先輩方から直接お話を伺うことができるというのは、なににもまして得難いことだと思います。これは、音響家協会が組織に依存しない個人参加だから可能なことだと思うのですが・・・。
MC:日本音響家協会というのは、そういうことを目指してきたんですよ。協会で活動するときは会社の看板を降ろして、会社にとらわれないで個人の立場で活動する、そういう雰囲気が協会を面白くする。
加藤:実際に自分で色々やってみると、すごく勉強になりますね。誰かがやるのを待っていてもつまらないですよ。私も最初は勇気がいりましたが。
花田:その最初の勇気というのがなかなかたいへんなんですよね。特に入会したての人間にとっては。でも、ちょっと自分が積極的になれば、本当に周りの先輩方が、いろいろと手助けして下さる。今の時代に、人のつながりの大切さを実感できる貴重な関係だと思います。
大野:実は協会に入るとき、何人もの人から「入会すると日本音響家協会は何をしてくれるの?」と聞かれたんですけど、僕の考え方はそうではなくて協会で自分が何をできるか、何をするかだと思うんですね。実際に入会してすぐに運営委員をやらされて、いろんな方と接して、お話を聞いたりして新しい発見があったり、とっても良い経験になっています。その副産物として仕事を頼まれたりすることもありますけど。
MC:新会員に運営委員をお願いするのも、協会の一つの方針です。
加納:今でも入会を勧めるとやはり「メリットあるの?」と聞かれます。でも、そこは個人参加の協会ですから自ら協会との関わりを切り開かないと駄目だと思います。私自身、北海道支部の設立以来、運営に参加させていただいていますが、いろいろな部分で勉強につながって、それが本業の仕事に結びついています。
ライバル会社の人間が和気あいあいと
横山:それに日本音響家協会はセミナーが面白いですよね。本当はライバル会社の人間なのに、皆さん和気あいあいとやっていて、リラックスしてやっているところがやっぱりいいですよね。それにセミナーの目的もはっきりしているし、主催側も参加者に何を伝えたいか、きちんとしていますよね。
大野:内容的にも濃いことやっています。和気あいあいとやっているからといって内容がないわけじゃなくて、非常にためになることをやっています。私は知り合いの方に入会しなよとまでは言いませんが、「セミナーはためになるから来てみなよ」と誘っているんですよ。
丹羽:協会のセミナーは、とても勉強になりますね。施設見学会も、ふだんは見せてもらえないような裏側まで見せてもらえる。これは協会の力ですよね。
MC:皆さんは協会で今後、どんなことをやってみたいですか。
横山:私は、いろんなところをまわってみて感じていることがあるんです。それは、いろんなホールで音響さんとはいいながら全く音響がわからない人達がまだまだたくさんいるじゃないですか。卓の前で呆然とするといった。そういう人達を助けていけるようなことをやってみたいですね。そういう人の力になるような活動を協会でできたらいいなと考えています。
MC:それはすごくいいことですよね。ぜひ実現して欲しいですね。そういった意見がでてくることは素晴らしいです。
加納:そのとおりですね。それと技術職員を委託してない公共ホールでは、3年程度で職場異動があるため技術を修得する頃には、また異動になる。このような公共ホールと協会が連動して勉強会など開催できるといいですね。
加藤:今まで勉強してきたことや教わってきたことを、これからの音響家を目指している人たちに伝えていきたいですね。これは自分の勉強のためにもなりますし。
横山:やはり、音響の世界の底上げが必要だと思うんですよ。そういう人達が音響に興味を持ってくれて技術を覚えたら、次はもっといい機材を買ってくれるかもしれないわけだし。皆で小さいパイを取り合ったってしょうがないし、もっと大きなパイを皆でつくっていけばみんなの取り分がおおきくなるわけでしょう。そうしていかないと駄目だと思うんです。
花田:それは、音響だけでなく、舞台関係全体にいえることだと思いますね。
会員の一人ひとりが運営委員のつもりで
前川:私もそう思います。人に教えるということはたいへん難しいんですが、結局それが自分のためにもなっていると思いますね。それと、これは支部運営委員をさせていただいている者として会員の皆様にお願いなんですが、会員の方、一人一人が運営委員のつもりでもっともっと協会の催し物に参加して欲しいですね。
花田:これは、私の周りに限ったことではないと思うんですけど、例えばある機材の使い方を尋ねると、聞いた人ごとに違う答えが返ってくる。人に教えるという基本的な部分に限っても、理論より、経験値というか慣習の方が先に立ってしまっているなぁと感じることがよくあります。どれが正しいというのではないのですが、そういう自分なりの情報や考え方を持ち寄って、もっと良い方法を検討する、ということができるような場を作りたいです。そういうことから出てきたものを、またメーカーサイドに返して・・。あっ、でもこれって協会では既にやっていますよね。こういったことがもっと、日常的にあたりまえになるというか、自分が仕事をしている地盤の中に根付かせたいと思っています。
MC:デジタル調整卓サミットを開催し、私たちの意見をメーカーに浸透できましたね。私たちの意にかなったデジタル卓が開発されています。大野さんのやってみたいことは、どんなことですか。
大野:私は日舞や歌舞伎など古典の音響に関しては今一つ知識が少ないのですが、そのようなジャンルに馴染みのない人達も多と思うんです。日本の伝統芸能に関するセミナーやワークショップをやれるといいですね。
横山:この世界は劇場がはやらないと、業界の繁栄もないわけですよね。いい劇場ができて、いい出し物があって、お客がたくさん来て、いい音響家が育って。そういうふうにならないとメーカーの私たちは機材も売れないし、この業界の繁栄もないわけですよね。この世界はやはりエンターテイメントの世界ですから、劇場が繁栄してこそ、なわけでしょう。そういった意味で、いい劇場をみんなで創っていけたらいいですよね。
大野:最近ホール100選のような活動がはじまりましたが、そういった活動を通じていろんな方のコミュニケーションがうまくできるようになるといいですね。いろんなホールがありますし、いろんな方がいらっしゃいますが、同じ世界のなかでいがみ合っていてもしょうがないわけですから。そういうことも考えていかないといけないと思っています。それと、協会のセミナーなんかを通じてもっと現場のオペレーターとメーカーの方との意思疎通みたいなことができたらいいなと。現場の意見をもっと反映した製品作りなんかのお手伝いができたらお互いのためにいいと思いますし、そういった活動を通じて皆でこの業界をよくできたらな、と思っています。
立場は違っても、良いものを作る気持ちは同じ
加藤:立場が違っても、良いものを作る気持ちは同じだと思います。そんな仲間が自然と集まる協会がいいですね。そして、激論を交わす!
前川:音響の仕事をしている人、また、これから音響の仕事をしたいと思っている人が一生の仕事として安心して人生設計ができる環境作りが必要です。また、現場では、女性の方が増えているのに会員は少ないようですね。若い方や女性が協会に入ってみたくなるような魅力ある催しやセミナーなどを増やしたいですね。
花田:良い劇場を創るのも、良い舞台、良い音を創るのも、最終的にはそれに携わる人の気持ちだと思います。私たちは、形になるものは創らないけれど、毎日、文化を創っている・・・。そういうことが、もっと大事にされ、尊重されるような業界になればいいなぁ、ではなく、業界にしたいと思います。「正直者が馬鹿を見ない・・・」というんでしょうか。セミナーなどで会長のお話を聞きながら、いつもそう感じています。
丹羽:音響に興味のある学生さんの入会なんかは、どうでしょうか?
MC:だれがどのように面倒をみていくかが問題でしょうね。学校の担任の先生のように、手取り足取りお世話する人がいないと混乱します。会員を増やして、会費増収という考えならばよしたほうがいいでしょうね。
加納:私は、大げさな言い方をすれば、もし協会に入会していなかったら人生観も違ったと思えるくらいに協会との出会いは大きな存在です。これからも協会運営に協力していきたいと思います。そして会員は、協会運営が報酬など存在しない、ボランティアで支えられていることを再認識すべきです。会費だけ払っていればあとは、誰かがやってくれるという考えを改めれば、もっともっと参加意識を高められるし、協会として大きく成長できると思います。
MC:そうですね。それから、この協会は技術だけでなく人間性の教育機関でもありたいと思っているんです。いつも音の話をしているのではなく、旅をしたり、山に登ったり、美味しいお酒を堪能したり、いろいろな料理を味わったりしながら良い人生を送りながら、自分を磨いていく、そんな仲間の協会でありたいですね。そんなわけで総会を全国各地で実施して、楽しめる全国大会にしています。そして、日本音響家協会の会員のいる仕事場はすごく気持ちよく仕事ができるといわれるような、そういう協会員が育ってくれるといいですね。次の世代の皆さんも、日本音響家協会をそういうふうに運営していってくれると嬉しいですね。
【文責:SOIND A&T編集委員/清水御幸】