「心の豊さが感じられる街」それは、施設が整備されているだけでなく、人と人との交流が出来る機会の多い街だと考えます。白河地方でも、様々な方が活動を 行っていますが、それぞれの活動が活発になれば、住民との交流が多くなります。それには、団体・企業・行政・学校・個人を結ぶ情報発信基地をつくりネットワークして いかなければと考え立ち上げた団体が、私たち「カルチャーネットワーク」です。』というのが、このNPO法人の方針で、ここに謳われていることは優良ホールの選定基準そのものである。カルチャーネットワークが指定管理者として運営するのが白河市文化センターで、運営に携わっている後藤一光さんとは、宮城県登米で開催した音響技術セミナーで知り合った。そのときの懇親会でお話しを伺っていて、大きな輝きが感じられた。今回は、その後藤さんがいらっしゃる優良ホールを訪問した。(2007年11月取材)
Q カルチャーネットワークの事業について教えてください。
後藤 カルチャーネットワークは幅広く事業を行っています。白河市文化センターと白河市東文化センターを白河市の指定管理者として管理しています。福島県白河市、西白河郡、東白川郡を含む、しらかわ地域の文化活動を行なっている団体や個人を支援しています。活動のアドバイスや広報などの支援です。また、しらかわ地域の月刊文化情報紙「I CAN DO !!」(毎月5000部発行)の製作、発行。その他、年1回の製作、発行している「白河だるま市MAP」(毎年2月、20,000部発行)と、「白河地域の気になるお店」(毎年11月、25,000部発行)があります。これらは、すべて無料配布です。白河市東文化センターの自主事業の企画運営も行っています。それから、白河シネマパラダイス運営委員会の事務局となっていて、2つの文化センターを使って月1回、映画上映会をやったり、毎年夏には「白河シネマフェスティバル」を開催したりしています。また、映画、テレビ、PV、雑誌・写真集などのロケ支援をしています。
Q 映画をテーマに地域文化を育んでいるとお見受けしますが、白河と映画のゆかりは。
後藤 2003年夏、映画「らくだ銀座」という作品が、白河市内を中心にロケをして製作されました。カルチャーネットワークは、地元の文化支援団体としてこの作品を全面的にバックアップし、作品完成後は「らくだ祭り」と称して、福島県県南地域の12の市町村の公共施設でロードショー上映をカルチャーネットワークが中心となって行ないました。その後、映画館のない街、白河でなんとか映画を楽しむ環境を作ることができないかと検討、模索して、白河シネマパラダイス運営委員会を立ち上げました。現在では私たちが白河市の指定管理者となり管理運営している白河市と白河市東の両文化センターで毎月、劇場公開映画を上映するまでになりました。また、白河市出身の映画監督、池谷薫氏やサトウトシキ氏とも交流を深め、毎年夏には白河市文化センターで「白河シネマフェスティバル」という1日中、映画を上映するイベントも行い、作品上映だけでなく、トークショーやミニコンサートなども行ない、今年で4年目になります。
Q 映画というのが素敵です。映画を通じて地域社会とのコミュニケーションをやっているのですね。私も映画が好きでよく観ています。映像に奥深さがあり、安心して観ていられるのです。アフガニスタン戦争が終わったとき、いち早く映画館がオープンして、民衆は殺到したといいます。また、最近では歌舞伎を映像にして映画館で見せています。映画には不思議な力があります。
後藤 白河シネマパラダイスのテーマが「人と街をつなぐ」です。単なる劇場映画の定期上映会ではなく、そこに関わる我々スタッフや観に来るお客様、そして監督をはじめ映画制作を行なうスタッフなどが、シネマフェスバルや上映会を通してコミュニケーションできる場を提供しています。
Q そのような活動をしながら、ホールの管理、運営もやっているわけですね。
後藤 文化支援活動や情報発信活動に加えてホールの管理運営を行なうことは、なかなか大変なことなのですが、白河シネマパラダイスを進める中で、文化センターを管理運営していることは、大きなプラスのチカラになっていると思います。
Q 直に地域住民のみなさんと接しているので、それをホール運営にも活かせるのですね。
後藤 地域のみなさんからいろいろな声を頂戴しています。映画上映会やコンサートなど、自主企画のイベントを行なうことで、みなさんが今何を望んでいるのかが、少しずつわかるようになりました。
Q 福島県だけでなく栃木県北部まで地域を広げている
後藤 映画というツールを通して、上映会のお手伝いやロケ支援の情報交換などを那須フィルムコミッションの方々といろいろとコミュニケーションをとらせていただいています。白河は県庁所在地である福島市や商都である郡山市よりも、となりの那須町のほうが近いのです。リゾート地の那須と城下町の白河。面白い組み合わせだと思いませんか。官主体ではなかなか難しい他県との交流も、民間主体だとスムーズに運びます。これからも、那須と白河とで面白いことを企画して行きたいと考えています。
Q 指定管理は2か所を請け負っている
後藤 今までの白河市文化センターに加えて、今年、平成19年度4月から白河市東文化センターも管理運営するようになりました。
Q どのようなスタッフ編成で運営していますか。
後藤 両ホールあわせて5人ローテーションで常駐しています。スタッフが少ないので、技術から、情報紙編集から、映画のチケット販売まですべてこの人数でやっています。正職員4名と臨時職員1が基本の形で、自主企画イベントの時は、ボランティアスタッフ、うちでは、彼らを「グランドキャリア」と呼んでいますが、10〜20名ほど手伝ってくれます。
Q 主催イベントはどのようなものをやっていますか。
後藤 今のところ、映画上映会とコンサートを企画実施しています。また、今年初めて、スタッフ養成講座を実施しました。「音響照明 基礎講座」「映画技師 基礎講座」「情報紙編集 基礎講座」の3つです。予想を上回る合計18名もの受講者がいて、こちらも驚いています。あと、白河シネマパラダイスの映画上映会のときには「チケットサポーター」といって、毎回5枚のチケットを委託販売していただけるボランティアがおりまして、現在60名ほど登録いただいております。
Q いいホールとはいいスタッフがいることですから、同一組織が管理運営しているのですから、白河市文化センターだけでなく、白河市東文化センターも優良ホールに値するわけですね。
後藤 どちらも340席程度と、大きなイベントを行うことはできませんが、市民が利用するにはちょうどいいサイズです。白河市文化センターは白河市の中心に近く地理的に利用しやすいロケーションです。また、白河市東文化センターは同じ敷地の中に図書館ばかりでなく「きつねうち温泉」という温泉施設まであります。温泉付きホールというのはなかなか無いですよね。「浴衣でコンサート」や「温泉入浴券付きチケット」など特徴を活かした企画を今後も立てて行きたいと思います。
Q そのように、地域にマッチングした文化施設を作ることが理想ですね。素晴らしい発想だと思います。市民が気軽に立ち寄れる施設が本当の文化施設であって、文化は福祉です。このような形で運営できると、 いき甲斐、やり甲斐があるでしょうね。
後藤 まずは管理運営しているこちら側のスタッフが楽しむこと。その楽しさは必ず、使っていただくお客さまに伝わるはずです。いかに自分たちの環境を楽しくするかということに、常に頭を使っています。やりたいことはいっぱいあります。
Q そのような考えは素晴らしいです、全国のモデルにしたいですね、つまらなそうな顔をしたスタッフのいるホールでは夢がありません。市民は、立派な設備でなく、元気を与えてくれるスタッフがいるホールを求めているのでね。これからも期待しています。貴重なお話しありがとうございました。
■白河市文化センターは、342席のホールと、51.17㎡の研修室を持つだけである。ホールの平面図には、観客席後方に映写室が大きく書かれている。ここに、このホールの方針が明確に伝わってくる。設備について特記することもない。これでいいのだ。劇場やホールは、道具であって商品ではない。市民からすれば、そこで演じられるものが商品なのである。高価なデコレーションも開演すればどうでもいい。返って邪魔になることもある。今回の取材で、ホールの在り方の基本を教えられた思いがする。(取材:八板賢二郎)